研究概要 |
グリシンの生体内での分解反応は4種類のタンパク質(R, H, T, L)からなる多酵素複合体であるグリシン開裂系によって触媒される。本研究は、グリシン開裂系の構成タンパク質さらにはそれらの複合体のX線結晶構造解析を行うことにより、代謝経路全体を原子レベルで解明することを目的としている。研究方法としては、高度好熱菌Thermus thermophilus HB8由来のタンパク質を用い、まず単独成分で立体構造を決定し、次にそれらの構造をもとにグリシン開裂系を超分子複合体として構造解析する方針ですすめた。昨年度までに、全構成タンパクの大量発現系の構築と精製をおこない、HおよびLタンパクの構造解析、Pタンパクの結晶化および予備的回折実験をおこなった。今年度は、Tタンパクの結晶化条件の検索と、Pタンパク結晶の重原子誘導体の検索を引き続きおこなった。また、Hタンパクの結晶構造解析の結果についてActa Crystallographica Section Dに誌上発表した。 グリシン開裂系の構造解析と並行して、同様な多酵素複合体である分岐鎖2オキソ酸デヒドロゲナーゼ複合体の構成成分E1の結晶解析をおこなった。Pタンパクと同様に、αおよびβの両サブユニットの共発現を行うことにより可溶性画分に回収すること成功し、安定な複合体として精製にすることができた。次に、結晶化および回折データ測定を行ない、基質非結合型の構造を決定した。さらに、ES複合体モデルとしてのE1・基質アナログ複合体、実際の反応中間体としてE1・基質複合体の立体構造をそれぞれ決定することにより、基質認識機構および基質結合時の構造変化を解明した。さらに、これらの構造に基づいて触媒反応機構を説明することに成功した。この結果については論文を執筆し、Journal of Molecular Biology誌に採択が決定している。
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