超臨界水中の反応機構については、諸説(ラジカル反応機構、イオン反応機構)があるが、いずれの説においても確たる証拠はない。また、近年、水触媒反応機構のような新たな説も提案されている。このような現状を考慮して、本年度は塩化メチル分子の反応に対して超臨界水中でハイブリッド型第一原理分子動力学(QM/MM).シミュレーションを行った。塩化メチルからメタノールを生成する超臨界水中の反応機構については、従来のイオン反応機構と水触媒反応機構が可能性として考えられる。そこで両反応機構に対する超臨界水中の活性化エネルギーをQM/MMシミュレーションから決定し、その比較を行った。その結果、気相中ではイオン反応機構が有利であるのに対して、超臨界水中ではエネルギー的に見て、水触媒反応機構の方が遙かに有利であることがわかった。これは、イオン反応が超臨界水の溶媒効果により抑制されるのに対して、水触媒反応は逆に促進されるためである。このような結果から、水触媒反応が超臨界水の特異な反応性を担っている可能性を示すことができた。なお、今回のシミュレーションでは、反応に関与する分子が複合体を作る確率を求めていないため、速度論的な考察は行なっていない。速度論的な考察は今後の課題である。 また、膨大な計算量が必要なQM/MM計算のために、新たに高速なワークステーションVT-Wsi/Pentium43.2GHz(ビジュアルテクノロジー社製)2台を購入した。
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