移行期のモンゴル国における家畜をめぐる在来価値と市場価値の接合過程を、家畜管理技術にみられる人間と家畜のミクロな関係を把握し、また社会主義の歴史的経験を踏まえた上で明らかにするため、調査検討を進めてきた。 4〜5月には、牧畜社会における貨幣経済の浸透に関する各地の民族誌的・理論的問題を扱った経済人類学の文献を収集し、読書会を組織して論文を読み込んだ。またポスト社会主義圏人類学ワークショップ(5月23日、キャンパスプラザ京都)で口頭発表「モンゴル国における自然および社会環境の多様性」を行った。6〜8月には、家畜管理と遊動生活について地理的側面から理解を深めるため、岐阜県立図書館で収集したモンゴル国と周辺地域の地形図を利用し、これまでに得られた季節ごとの遊牧キャンプの立地点や放牧に利用される草地の範囲に関するGPSデータを地形図と関連づけて分析した。 9〜10月にはモンゴル国の3つの県でフィールドワークを行ったが、各地点でバイク・自動車運転手兼ガイドを雇うことで多くの世帯を訪問しインタビュー、観察ができた。ドルノト県(バヤンドン郡など)での調査結果はすでに論文などとして発表した(裏面参照)。ドンドゴビ県(デレン郡など)では、牧民が郡中心地や首都へ移動して商人や賃金労働に転職したり、反対に首都育ちの青年が親族をたよって牧民になるなど、都市との強い関係が見られた。ザブハン県(テルメン郡など)は国内でももっとも市場へのアクセスが悪い地域として今年新たに調査地開拓して予備調査を行ったが、近年、雪害の影響で家畜数減少が著しく減少したところであった。 下半期には論文執筆を行った。以前の他地域での調査結果を今年度の調査結果と比較して再検討し、「遊牧民の離合集散と世話のやける家畜たち:モンゴル国アルハンガイ県における牧畜労働の組織化とヒツジ・ヤギ日帰り放牧群の管理」として投稿準備している。
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