本年度は、19世紀のシーア派聖地研究に重点を置き、特にイラクのアタバート(ナジャフ・カルバラーなど4箇所の墓廟の総称)と呼ばれるシーア派聖地へのイラン人シーア派教徒による参詣活動の実態、およびその社会的意義について研究を進めた。 参詣活動の実態に関しては、主に当事者であるイラン人自身の手になる旅行記史料を利用し、参詣の時期や経路・期間・形態、および参詣地での活動を具体的に明らかにすることができた。さらに、イラン国内の文書館・図書館等に、散逸しながらも残されている一部の外交文書を利用し、イラン人参詣者の問題点を指摘することができた。これらの成果を、11月の東洋史研究会大会(於京大会館)にて発表し、有益な意見を多数頂戴した。 また、イラン側資料のみでは不十分であった資料面において、本年度は、トルコ共和国総理府オスマン文書館(イスタンブル)にて文書史料調査を行った。これは、20世紀初頭まで、実質的にオスマン朝がイラクを支配しており、19世紀においては特に、バグダード州長官からオスマン政府への文書が多数確認されるにもかかわらず、これまでまったく顧みられることがなかったためである。2月に上記文書館にて史料調査を行った結果、多数の重要な文書を発見し、イラン人のアタバート参詣が、当時のイラン=トルコ間での政治・外交・社会問題であったことの証左を得た。但し、この文書史料の詳細な検討は、来年度に委ねられる。 さらに、サファヴィー朝期に関する以前の研究を踏まえて、7月にバンベルク(ドイツ)で開催された「第4回サファヴィー朝学会Fourth International Round-Table on Safavid Studies」に参加し、"Who was Isma'il b.Haydar al-Husayni"というテーマで発表を行い、各国のイラン研究者と交流する貴重な機会を得た。
|