研究概要 |
真猿類と原猿類の違いは,頭蓋や歯顎形態だけではなく幾つかの四肢骨形態についても議論されてきた。本研究では,先行研究で指摘された上腕骨・踵骨・距骨の形態が,より多様な分類群にもとついた系統比較を行った時に,真猿類的な特徴や曲鼻猿類的特徴として支持されるかを検討した。また,この系統比較からは,中期始新世ミャンマーから産出するアンフィピテクス科について,四肢骨特徴もこの科が曲鼻類のアダピス類より初期真猿類である可能性が強いことを示唆するという結果を得た。 四肢骨関節部形態の適応的な意義への理解を深めるために,内部構造も含めた形態のデータをとり,種間比較を行った。約20種の現生霊長類について上腕骨遠位関節をpQCTで撮影した。CT撮影は京都大学大学院理学研究科,京都大学霊長類研究所,米国スミソニアン機関国立自然史博物館で行った。この画像の観察からは,関節内の緻密骨と海綿骨の相対的な量や骨梁数は体サイズによって大きく異なることが示唆された。更に,関節内部の構造を外部形態やロコモーションの違いとに関連づけるために,体のサイズの似ている9種の霊長類に対象を絞って,比較を行った。緻密骨と海綿骨の対比では,ロリス類では相対的に緻密骨が厚く,逆にグエノンやキツネザルでは緻密骨が薄く,海綿骨の密度が高いという観察結果を得た。 始新世霊長類の古生物地理と関連して,始新世ミャンマーのポンダウン相から出る哺乳類についての記載を行った。特に,肉食性哺乳類(肉歯目)の系統解析の結果からは,始新世東南アジアでは北アフリカなどからのテーチス海に沿っての哺乳類の移動が可能であったことが示された。これと関連して,ミャンマー中部での化石発掘調査に参加し,ミャンマー国立博物館で化石の観察を行った。
|