本年度は、過去に調査を行った研究成果をまとめ、三本の論文として発表した。第一に、屋久島海岸部のニホンザルで発生した大量死についてまとめた。第二に、屋久島上部域のニホンザルの活動時間配分の季節変異を引き起こす環境要因についてまとめ、体温調節のコストが気温と同程度の影響を与えていることを明らかにした。第三に、屋久島のニホンザルの標高による密度の変異と、その環境要因についてまとめ、年間の総果実生産量が密度を決定していることを明らかにした。 また、これまでに収集した資料をもとに、屋久島海岸部と上部域の群れについて、生息環境・食物競合のパターン・社会関係を分析して比較した。その結果、上部域では採食パッチが小さいために群れ内での食物競合が起こりやすい一方、海岸部では単位面積あたりの果実生産量が多いため、遊動域の価値が高く、海岸部では群れはそれを防衛するために群れ間関係は敵対的であることがわかった。これらの競合のパターンの違いにもかかわらず、社会生態学の理論が予想するような社会行動の変異は見られず、社会行動は個体群内で安定であることが分かった。この論文は、現在投稿準備中である。 また、これらの論文の執筆と並行して、ニホンザルの食物の栄養分析の実験を行った。これは、ニホンザルの食物競合の結果、個体間の食物摂取量がどのように異なるかを栄養学的に明らかにすること、およびニホンザルの食物選択の基準を化学的に明らかにすることを目的として行っている。結果の分析は、来年度行う予定である。
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