研究概要 |
本研究では,餌をめぐる個体間の競合と協力行動の成立について検討した。8組のフサオマキザル(4組が非協力ペア,残りの4組が協力ペア)で同時「棒ひき課題」をおこなった。テーブルの両端に棒が取りつけられており,サルが棒をひくとテーブルが回転,もしくは手前にスライドする仕組みになっている。1頭のサルがテーブルの片側から棒をひくと,テーブルが力の方向に回転し,棒をひいたサルだけが餌を手にいれることができる。2頭のサルが両側から棒をひくと,テーブル全体が力の方向にスライドし,両方のサルが餌を手にいれることができる。この課題では,2頭のサルが個々に棒をひいても餌を手にいれることができるが,2頭が協力して一緒に棒をひくと,より多くの餌を手にいれることができる。非協力ペアの優位のサルは,劣位のサルを攻撃し追いはらうなどして装置を独占した。その結果,2頭のサルのあいだに協力はおこらず,優位のサルによる餌の独占がみられた。対照的に,協力ペアでは個体間の攻撃的なやりとりや装置の独占はみられなかった。2頭のサルが協力したのは,1)2頭でひかないと餌が手にはいらない場面,2)1頭でひくよりも2頭でひいた方がより多くの餌が手にはいる場面であった。一方,2頭のサルが協力しなかったのは,3)あきらかに片方のサルしか餌がとれない場面,4)1頭でひいても2頭でひいても手にはいる餌の量が同じ場面であった。すなわち,相手と一緒に棒をひいても得をしない時には協力せず、相手と一緒に棒をひくことでより多くの餌を手にいれられる競合的な場面では協力が好まれた。しかしながら,協力ペアの2頭の餌配分は均等ではなく,餌をめぐる競合が高い場面ほど劣位のサルが損をしていた。現在、行動の詳細な分析をとおして、協力的問題解決にいたるサルの戦略および、認知的プロセスについての相対的な考察をおこなっている。
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