研究概要 |
大地震を起こす高速・大変位条件下における断層の岩石力学的性質を調べるために,回転式リングせん断試験機を用いた摩擦実験を試みた.ガウジの高速摩擦実験に使用する試験機は,現状ではガウジを断層面上に留めることができないため,低摩擦物質であるテフロンを用いたシールを開発した.これにより実験中ガウジを漏らすことなく最後まで摩擦特性を調べることが可能となり,以下の性質が明らかになった. 1,摩擦係数は,実験開始直後に0.8ぐらいまで急激に増加する.その後摩擦係数は徐々に低下していき,最後にはほぼ定常状態(摩擦係数=0.2〜0.6)に達する. 2,定常摩擦レベルは垂直応力に強く依存し,2.1MPaの最大垂直応力では0.25以下の非常に低い摩擦係数を示した.地下深部での高圧下においては断層の摩擦はさらに小さくなる可能性が高い. 低速の摩擦実験により調べられた岩石やガウジの摩擦係数は0.5〜0.8の値である一方で,サンアンドレアス断層沿いでの地殻熱流量測定から推定された天然の断層の摩擦係数は0.2以下であるとされており,この不一致は長い間多くの地震学者を悩ませてきた.応力・熱流量パラドックスを説明するために,これまで摩擦熱による間隙圧上昇,岩石溶融,液状化,流体潤滑などいくつかの断層の強度低下機構が提案されてきた.しかし今回の実験結果から速いすべり速度下の断層は非常に低い摩擦強度であることがわかり,わざわざ上述したような強度機構を考慮する必要がないのかもしれない。
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