今年度の研究成果は2つの原著論文として公表された。1.インコ類における特殊な頭蓋-顔面蝶番の形成について:インコ類の嘴は丈が高くて前後に短く、下方に湾曲した上顎は頭蓋との深い頭蓋-顔面蝶番(Cranio-facial hinge=CH)を介して上下に大きく動かすことができる。以上のような特殊な頭骨形態の進化をより深く理解するためにインコの胚、雛および成鳥の骨格標本を作製し、頭骨発生パターンを記載した。その結果、インコの頭骨発生パターンは他の鳥類のものと基本的によく似ていた。一方、インコ類の頭蓋キネシスはカラスなど多くの鳥類でみられるプロキネシス型とされてきたが、上顎基部のCHは鼻骨のある一定領域が2次的にくびれることで形成される点で、鼻骨-前頭骨の縫合境界が直接CHになるカラスなどの鳥類と大きく異なっていた。以上の点からインコ類における頭蓋キネシスを偽プロキネシス型とすることを提案した。2.インコ類に見られる特殊な顎筋の形態形成について:オカメインコ胚を用いた組織学的解析によって篩骨下顎筋(M.ethmomandibularis)、擬咬筋(M.pseudomasseter)という2つのインコ類特異的な顎筋の形態形成を記載した。篩骨下顎筋はステージ28で翼状筋原基の前端部突出として初めて確認され、ステージ32以降、口蓋骨の外側を通り眼窩間中隔へ向かって前・上方向に顕著に伸長した。擬咬筋はステージ36で外下顎内転筋より分かれ、背・外側方向に伸びる筋集合として確認され、筋上端には最終的に腱膜に分化する間葉凝集を伴い、頬骨弓の外縁を覆っていた。顎筋に付随する結合組織は頭部神経堤細胞に由来することが知られており、インコ類では神経堤細胞に由来する異所的な結合組織が顎筋の空間パターンに影響をあたえることによって擬咬筋のような特殊な顎筋を獲得した可能性を示唆した。
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