NADキナーゼのX線結晶構造解析とタンパク質工学的機能変換

2003 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 03J05336
• 研究機関: 京都大学
• 研究代表者: 森 茂太郎 京都大学, 農学研究科, 特別研究員(DC2)
• キーワード: NADキナーゼ / ポリリン酸 / ATP / X線結晶構造解析 / 進化生物学 / タンパク質工学 / 結核菌 / 構造機能相関

研究概要

微生物には、2種類のNADキナーゼ(ATP特異的NADキナーゼとポリリン酸([Pi]n)/ATP-NADキナーゼ)が存在する。[Pi]nは、ATP出現以前のエネルギー担体として機能していたと考えられていることから、NADキナーゼを含めたキナーゼは[Pi]n利用型からATP利用型に進化したと想定される。従って、両NADキナーゼの高次構造と反応触媒機構の比較解析により、NADキナーゼの[Pi]n利用機構、並びに[Pi]n利用能の獲得又は喪失に関わる分子進化機構を明らかにすることが可能と考えられる。これまでに、本申請者は、結核菌由来[Pi]n/ATP-NADキナーゼの結晶化に成功しており、その結晶学的諸性質を決定している。本研究では、[Pi]n/ATP-NADキナーゼの高次構造解析を進め、更に構造機能相関解析も試みた。これまでに、NADキナーゼの高次構造の決定例が報告されておらず、分子置換法による構造決定が困難であるため、得られた結晶を用いた、重原子同型置換法(MIR法)による立体構造の決定を行った。8種類の重原子置換体によるMIR法を用いて初期位相を決定した。初期位相を溶媒平滑化・分子平均化により改善し、初期モデルを構築、並びにその精密化を行い、本酵素の立体構造の概略を明らかにした。その結果、本酵素のサブユニットは、βシートで構成されているC末ドメイン(約20kDa)とα/β構造のN末ドメイン(約10kDa)から構成されていることが明らかになった。また、両リン酸供与体(ATP、[Pi]n)をソーキングした結晶を用いて、両供与体の結合部位を解析した結果、基質結合部位が2つのドメイン間に存在する活性クレフトに存在しており、さらに、少なくとも一部は共有されていることが示唆された。これは、本酵素を用いて行った、速度論的解析の結果とも一致した。

研究成果

• [文献書誌] Shigeyuki Kawai: "Primary structure of inorganic polyphosphate/ATP-NAD kinase from Micrococcus flavus, and occurrence of substrate inorganic polyphosphate for the enzyme"Biosci.Biotechnol.Biochem.. 67・8. 1751-1760 (2003)
• [文献書誌] Takako Mukai: "Crystallization and preliminary X-ray analysis of inorganic polyphospahte/ATP-glucomannokinase from Arthrobacter sp. strain KM"Acta Cryst.. D59. 1662-1664 (2003)
• [文献書誌] 河井 重幸: "微生物のポリリン酸/ATP-NADキナーゼはNADHキナーゼ反応を触媒する"ビタミン. 77・5-6. 313-318 (2003)
• [文献書誌] Shigetarou Mori: "Crystallization and preliminary X-ray analysis of a X-ray analysis of a novel unsaturated glucuronyl hydrolase from Bacillus sp. GL1"Acta Cryst.. D59. 946-949 (2003)
• [文献書誌] Shigetarou Mori: "A novel member of glycoside hydrolase family 88 : overexpression, purification, and characterization of unsaturated beta-glucuronyl hydrolase of Bacillus sp.GL1"Protein Expr.Purif. 29・1. 77-84 (2003)
• [文献書誌] Shigeyuki Kawai: "Cytosolic NADP phosphatases I and II from Arthrobacter sp. strain KM : Implication in regulation of NAD/NADP balance"J.Basic Microbiol.. 44・3(In press). (2004)