本研究計画では、モデル植物であるシロイヌナズナを用いて、膜輸送における各オルガネラ膜の動態を明らかにすることを目指してきた。本年度は以下のような成果を得た。 (1)高等植物はその細胞内に高度に発達したオルガネラ(細胞内小器官)を持ち、小胞輸送によりたえず物質交換が行われている。小胞輸送において輸送小胞と標的オルガネラ膜との膜融合は非常に重要な反応の一つであり、SNARE分子が特異的な膜融合を担うタンパク質として知られている。シロイヌナズナのゲノム中から54種類のSNARE分子をコードする遺伝子を単離し、RT-PCR法によりそれらの遺伝子の組織的発現を解析した。その結果、1遺伝子を除く53種類の遺伝子がほとんどすべての組織で発現していた。次に、細胞内局在を調べるために、それぞれのSNARE分子とGFPとの融合タンパク質を発現するプラスミドを構築し、それらをシロイヌナズナ培養細胞に導入後、共焦点レーザー顕微鏡により観察した。その結果、6種類の小胞体に局在するSNARE分子、9種類のゴルジ体に局在するSNARE分子、7種類のトランスゴルジ網に局在するSNARE分子、2種類のエンドソームに局在するSNARE分子、21種類の細胞膜に局在するSNARE分子、9種類の液胞膜に局在するSNARE分子を明らかにした。これらの結果は、植物細胞における複雑な小胞輸送経路とその機能を理解する上で非常に重要な成果と考えられる。 (2)細胞内小胞輸送に伴うオルガネラ膜の動態は、近年、蛍光タンパク質とレーザー顕微鏡等の開発により明らかになりつつあるが、ポストコルジ・ネットワークにおいてはほとんど知られていない。そこで、上記(1)の成果から得られたトランスゴルジ網、細胞膜、エンドソームに局在するSNARE分子とGFPとの融合タンパク質を発現する遺伝子組み換え植物を作成した。現在、詳細な膜動態を解析中である。
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