前年度までに、非平衡Langevinモデルの揺らぎと散逸の関係について、簡単な等式関係が成立することを発見していた。この結果によると、非平衡状態にある系において、揺らぎと応答の関係(揺動散逸定理)の破れの度合いが、系が単位時間あたりに散逸するエネルギーの量と、簡単で一般的な等式関係にあることが分かる。本年度は、この結果をさらに拡張し、これまで知られていた様々な種類の非平衡Langevinモデルにおいても、同じ等式関係か、場合によってそれを少し拡張したものが厳密に成立するということを一般的に明らかにした。このようなモデルには、生体分子モーターのモデルとして活発に研究がおこなわれているBrownian motorモデルも含まれる。こうした結果から、我々が前年度に得た、揺らぎ-応答関係の破れとエネルギー散逸率との等式関係は、非平衡Langevinモデルでは系の詳細に依存しない、普遍的な関係であることが分かった。これらの結果はPhysical Review Letters誌とPhysical Review E誌に発表された。培養心筋細胞系のパターン形成現象については、前年度までに、心筋細胞自体の拍動によって発生する周期的張力が、細胞同士のクラスター形成の駆動力になっているという示唆を得ていた。本年度は、その仮説を更に裏付けるために、細胞集団のダイナミクスをマルコフ確率過程によってモデル化し、その挙動を数値的に調べる事によって、周期的張力の発生によって細胞クラスターの形成が促進され得る事を確認した。またそうした考察を通して、細胞と培養基板および周辺の細胞との接着力の重要性を認識した。こうした結果をまとめて、Progress of Theoretical Physics supplement誌に論文を発表した。
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