メバルSebastes inermisは、日本沿岸に普遍的に生息している重要水産魚種である。メバルは、採捕地点から約4km離れた地点に放流しても数日以内に生息域へ回帰する。2002年度までのバイオテレメトリー調査の結果、メバルは磁気受容器を使用して定位する可能性が示された。しかし、生息域への回帰行動に地磁気を利用しているかは未だ明らかになっていない。そこで本研究では、メバルの体内に磁石を装着することによって、メバルの回帰行動が撹乱されるかを調査した。 供試魚は、2003年10月に関西空港東護岸の2地点で釣りによって採捕したメバル16尾(210±8mm)を使用した。実験区8尾に磁力0.3Tの小型磁石とコード化ピンガー(Vemco社製、V8SC-6L)を、対照区8尾に同ピンガーを腹腔内に装着した。装着から2日後に、供試魚を採捕地点から約2km離れた地点に放流した。行動追跡には、長期間追跡可能な設置型受信機(Vemco社製、VR2)5台を使用して、同年12月までモニタリングした。 対照区8尾中5尾が採捕地点へ回帰した。これに対して実験区は8尾中2尾のみが回帰した。回帰に要した時間は両区で差が無かった。これらの結果より、メバルは回帰行動に他の感覚器官と共に地磁気を使用している可能性が示された。対照区5尾が長期間、放流・採捕地点付近でモニタリングできたのに対して、実験区は1尾しかモニタリングできなかった。これらの個体は、両区共に受信回数が潮汐リズムに対応して増減していること、超音波は岩礁で減衰することから、潮汐に応じて岩礁域から出入りしていたと考えられる。
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