1、近年、多孔質ガラス中の液体ヘリウム4が絶対零度かつ高圧下において、液体状態のまま超流動が消失するという実験が報告された。これは汚れたボース系における新しい強相関効果かつ新しい量子相転移現象であり、非常に興味深い。前年度、私は自己無撞着繰り込みという方法を用いて汚れたボース系が強相関領域において、そのボース凝縮や超流動性を失うという実験とよく似た結果を再現することに成功したが、それが物理的にどのような現象を示すのか不明のままであった。今年度、私は空間を細分化した上でエネルギーの極小値を探索するという、私の開発した全く新しい方法を用いて、このような強相関におけるボース凝縮や超流動の消失が、ボース凝縮の空間的な局在であるボースグラス相転移によって引き起こされているであろうことを見出した。この結果は汚れたボース系の新しい相の存在の可能性を明らかにするということにとどまらず、ボース系以外の、例えば電子系における空間的な局在現象を数学的に扱うための新しい方法を提唱する。 2、ごく最近、多孔質ガラス中のヘリウム4以外の系で汚れたボース系が実現された。それは磁場によって閉じこめられた極低温アルカリ原子ボース凝縮体に、磨りガラスによって配向が乱雑になったレーザーを照射することによって実現される。この系を用いた非常に興味深い応用として、磁場の閉じこめを急にはずしたときに実現される乱流状態である。この状態は通常の乱流と違って、ボース凝縮という量子性を強く反映した量子乱流状態である。私は、アルカリ原子ボース気体を記述するGross-Pitaevskii方程式を、その量子乱流状態にまで適用できる形へと発展させ、その数値シミュレーションを行うことで、量子乱流が通常の古典乱流と同じ統計性を示すことを明らかにした。この結果は次の点において非常に重要である。乱流は渦の振る舞いが重要であるが、量子乱流は大きさのそろった量子渦のみで構成され、より単純な構造を持つ。量子乱流が通常の乱流と同じ統計性を持つのであれば、流体力学最大の難問である乱流を量子乱流の視点から理解することが可能になる。私の今回の結果が乱流の理解への加速へとつながるであろう。
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