私の研究テーマは、不純物が存在するときのボース系においてボース凝縮と超流動がどのように振る舞うかということを理論的に調べることである。この系から作り出される最も興味深い現象の1つに、超流動乱流がある。超流動乱流は通常の乱流とは異なって、量子渦を構成要素としており、絶対零度近傍における超流動乱流は、量子力学のみによって支配されるため量子乱流と呼ばれる。 私は前年度から引き続き、量子乱流を記述するGross-Pitaevskii方程式の数値解析を用いて、その統計を調べた。エネルギー注入のない減衰乱流とエネルギー注入のある定常乱流を詳細に解析した結果、量子乱流には古典乱流に類似した、系のスケール普遍性が存在すること、エネルギースペクトルが古典流体においてよく知られているKolmogorov則に従うことを明らかにした。これは量子乱流が古典乱流との類似性を持っていることを示している。量子渦は位相欠陥として明確に定義されるため、古典流体の渦よりも分かりやすい。ゆえに我々の結果は、量子渦を構成要素とする量子乱流が流体力学最大の問題である乱流を渦の視点から理解するための理想的な系であることを示したといえよう。 量子乱流中の量子渦には、古典流体に働く粘性による散逸とは異なった特有のメカニズムが存在すると考えられてきたが、その詳細についてはよく分かっていない。私はGross-Pitaevskii方程式に揺らぎが導入されたBogolibov-de-Gennes方程式を量子乱流のダイナミクスに適用し、揺らぎによって引き起こされる量子乱流、超流動乱流の散逸機構の数値解析を行った。その結果、量子乱流では散逸が渦芯のスケールにのみ働くような特殊な構造を持っていること、そして有限温度の超流動乱流においてその散逸構造が超流動ヘリウムにおいてよく知られている現象論的な2流体モデルに一致することを明らかにした。
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