研究概要 |
社会性昆虫の一部の種では、産卵能力を完全に失った絶対的不妊個体が報告されており、これらは直接適応度を残せず、唯一の繁殖個体である女王を通じて間接的にしか適応度を稼ぐことができないため、究極の利他個体といえる。本研究では、この進化生物学上の問題点を、生態的、遺伝的、系統的側面から調査し、完全不妊ワーカーの進化を促す選択圧の特定と分子系統樹による完全不妊ワーカーの進化回数の推定を目的とした。初年度は、完全不妊種リストの作成と完全不妊ワーカーと生態形質との相関関係を調査した。 1:完全不妊種 完全不妊種はこれまで、Monomorium,Tetramorium,Solenopsis,Pheidologeton,Pheidole,Hypoponera,Brachyponera,Cardiocondyla,Vollenhoviaの9属で報告されていたが、今回の調査で新たにLeptanilla,Strumygenys,Pyramica,の3属で見つかった。それぞれの属でのサンプリング種数がまだ少ないため断定できないが、上述した属に含まれていた種が全て完全不妊ワーカーであったため、この形質は属レベルで進化したものと推測された。 2:コロニーサイズ コロニーサイズは大きく変動しており、数十個体のものから一万個体をこえるものまで様々であった。この変動は属間だけでなく属内でも見られた事から、コロニーサイズと完全不妊の発生パターンとの関係性は弱いと推測された。 3:女王数 女王数の変動はコロニーサイズと同様、属間、属内で大きく変動し、単女王制、多女王制コロニーの両方で完全不妊ワーカーが見られた 4:生息場所 生息場所は完全不妊の形質よりも、女王数やコロニーサイズと直接的に関係し、多女王制でコロニーサイズの大きな種はOpen landや二次林に、単女王制でコロニーサイズの小さな種は一次林で多く見られた。
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