本研究目的は、クラスレート形成蛍光性色素を用いて固体蛍光発光性と結晶構造の相関性について基礎的に調べ、得られた結果を基に、固体発光性色素創成の方法論の確立と多種多様なニーズに応えられる色素材料の創出を図ることにある。本年度は、得られた知見を基にして、新規な複素多環系蛍光性色素を開発した。以下に得られた成果の概要について示す。 1.クラスレート形成キノール系蛍光性色素の分子設計と合成 ベンゾフランキノールおよびイミダゾアントラキノールといった新規な縮環系キノール系蛍光性ホストを分子設計し、高収率で合成することに成功した。 2.色素結晶の包接能と固体光物性変化の調査 ベンゾフランキノール系蛍光性ホストはゲスト分子として脂環式アミン類を、イミダゾアントラキノール系蛍光性ホストはゲスト分子としてアルコール、エーテル、ケトンおよびベンゼンなどの様々な有機溶媒分子を結晶状態で包接することができる。固体励起及び蛍光スペクトル測定から、包接したゲスト分子に依存して結晶の色調の浅色シフトと蛍光発光性の増大が認められた。 3.蛍光性色素包接錯体の結晶構造の解明 蛍光性色素のゲスト未包接およびゲスト包接錯体の単結晶作製には低温インキュベーターを使用した。単結晶X線構造解析から、ゲスト未包接結晶ではホスト間で強いπ-π相互作用が形成されていた。一方、ゲスト包接錯体結晶では、ゲスト分子の包接によりホスト分子間のπ-π相互作用が緩和されていた。その緩和の程度は、各ゲスト包接錯体結晶において異なっていた。 4.固体光物性と結晶構造との相関性の究明 以上の結果から、固体蛍光発光性と結晶構造の相関性について考察を行った。その結果、ゲスト分子の包接により色素分子間のπ-π相互作用が緩和されて固体蛍光発光性が大きく増大することが明らかとなった。 5.固体発光型蛍光性色素材料の創出 得られた固体蛍光発光性に関する知見を基に分子設計にフィードバックして、色素単独で固体状態において強い蛍光発光性を示す新規な複素多環系蛍光性色素を開発した。
|