本研究では、学習により獲得される歌が異なる野生種と家禽種を実験に用いることで、行動を形作る究極要因(環境)と至近要因(遺伝)、さらに両者の相互作用が学習に反映される仕組みの理解を目的とする。 1.Cross-fostering実験 ジュウシマツ(里親)にコシジロキンパラの幼鳥(里子)を育てさせた。里子の歌を録音し、里親との歌要素の共有率、遷移パターンのマトリックス相関から学習可能性を検討した。4家族でデータを取ることができた。その結果、歌要素の共有率は里親-里子間でもジュウシマツの親子間と同程度であることがわかった。遷移パターンのマトリックスを比較すると、里親-里子間で相関がみられた。しかし、遷移規則に相関があったものの、ある個体は成鳥になっても遷移規則が完全に固定していないことがわかった。また、他の個体も歌い出すまでの時間がジュウシマツよりも長いことがわかった。 さらに、Cross-fostering実験で遷移規則が不安定であったコシジロキンパラを遺伝的基盤を共有する集団に合流させたところ、合流後1週間で遷移規則が単純化することがわかった。これらの結果はジュウシマツとコシジロキンパラ間こは生得的な学習可能性の幅に差があることを示唆している。 2.歌制御神経核における遺伝子発現の比較 Cross-fostering実験の結果をふまえ、ジュウシマツ5羽とコシジロキンパラ4羽の歌の制御に関わる神経核の遺伝子発現を比較した。その結果、ジュウシマツとコシジロキンパラでは歌制御神経核のAreaXにおいて遺伝子発現のパターンが異なることがわかった。(米国Duke大学のE.Jarvisとの共同研究) 3.自由交配実験 ジュウシマツの雌雄10羽ずつを禽舎で繁殖させた。歌のお手本が複数ある場合、そこで生まれたヒナは1〜3羽のオスの歌から一部を取り出し、自身で複雑な歌を構成することがわかった。
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