研究概要 |
平成15年度は主に以下に示した研究を行ってきた。 (1)種々のフタロシアニン(Pc)超薄膜の高分解能紫外光電子分光(UPS) 種々の金属Pc(OTi-,Pb-,ClAl-,F_<16>Cu-Pc)超薄膜をグラファイト(HOPG)基板上に作製した系に対し高分解能UPS測定を行い、最高非占有(HOMO)バンド微細構造を観測した。これらのうちOTi-,Pb-,ClAl-Pcはπ共役分子面に対して垂直方向に分子内双極子を持っており、分子配向を制御することで意図的に電気二重層を作製することができる。本研究では分子内双極子が(1)相殺された系と(2)一方向に配列した系を、分子配向を制御することで作製し高分解能UPS測定を行った。その結果、各Pc分子の分子配向(双極子配列)に依存したHOMOバンド微細構造を観測することに成功し、分子内双極子の存在によって有機半導体の電子準位が基板のFermi準位に対してシフトすることを実験的に捉えた。 (2)角度分解UPSによるPTCDA配向積層膜のエネルギーバンド分散 本研究ではPTCDA配向積層膜を作製し、精密な角度分解UPS測定を行うことで、PTCDA配向積層膜の光学的・電気的性質を理解する上で重要な分子間エネルギーバンド分散の実測に世界で初めて成功した。 (3)現有装置への試料冷却システムの導入・調整 上記実験と平行して、現有装置への試料冷却系の導入と調整を行い、40Kの冷却性能を達成した。 上記研究成果から分子性固体の光電子スペクトル微細構造を精密に調べることにより、実デバイスにおけるキャリアダイナミクスやエネルギー準位接合に関する重要な知見が新規に得られることが分かった。今後は光電子スペクトルの角度・温度依存性を測定することにより、有機デバイス関連界面における多様な電子物性の詳細な理解を目指す。
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