研究概要 |
本年度においては,心筋の材料特性を調べるための前段階として,左心室の変形特性が心室内の血流にどの程度影響をあたえるのかについて検討を行った.そのために様々な変形パターンを持つ左心室の計算力学モデルを作成して血流計算を行い,左心室内の3次元流れを解析した.その結果,左心室の変形能が全体的に低下し,拡張機能が全体的に低下した場合では,拡張期において発生する渦の成長速度が遅くなることがわかった.そこで、得られた結果を臨床診断で用いられるカラーMモード・ドップラ画像状にプロットし,画像と左心室の拡張機能との関係について調べたところ,両者は左心室拡張の後期に発生する複雑な渦流れの構造を介して関連付けられていることがわかった.また,画像から求められる診断指標は拡張機能の変化に対して線形的に変化し,特に正常から体積変化量が半減するまでの範囲において感度良く変化した.このことは,左心室の拡張機能が少し低下したような初期異常でも,この指標からそれを検知できる可能性が高いことを示している.一方,部分的な心筋梗塞の場合などを模擬し,左心室の変形特性を局所的に変化させた場合では,グローバルな流れのパターンにはほとんど影響せず,カラーMモード・ドップラ画像にも変化は見られなかった.また,拡張期開始時に収縮期より残存する流れの乱れが左心室内の流れに与える影響についても行った.その結果,残存する流れの乱れは拡張初期の流れには影響を及ぼすものの,拡張の進展とともに弱まっていき,カラーMモード・ドップラ画像のパターンを特徴付ける拡張後半の渦流れにはほとんど影響しないことがわかった.このことから,拡張機能診断に用いられるカラーMモード・ドップラ画像には,純粋に左心室の拡張異常により生じる流れの変化が反映されることがわかった. 以上の内容については,本年度,国内学会4件,国際学会4件,論文誌3誌(内2本が投稿中)にて公表した.
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