今年度は、内務省インディアン局長ジョン・コリアの思想を中心に「インディアン・ニュー・ディール」と呼ばれる先住民政策のもつ意味を明らかにしようと試みた。その研究結果について学会発表を行ない、発表に基づいた論文を現在執筆中である。 コリアは、同化論者に正当性を与えていた、合州国政府のマイノリティ集団に対する「保護概念」を否定し、多文化主義を可能とする新たな「保護概念」を提示した。まず、研究者によって提示された科学的データをもとに、マイノリティ集団と行政担当者、専門家が諸問題を検討し、可能な限りマイノリティ集団に決定を委ねること。そして、担当行政機関はその決定された内容の遂行に責任をもち、憲法に定められている人権規定に基づいて先住民を保護すること。最後に、結果を公開すること、などを定めた。 このように、コリアがインディアン再組織法において先住民の社会構成的文化を保護し、個人の自由や自己決定権を適用したうえで、先住民を白人社会に統合しようとしたのは、そもそもコリアが、近代化され、物質主義に侵されていく過程で、社会的紐帯を喪失してゆくアメリカ社会に鋭い危機意識を持っていたからであり、そこに有機的な先住民社会を多元的に統合することによって、コミュニティを再生し、そして再生されたコミュニティを通じてパーソナリティの再生を考えていたからであった。したがって、「インディアン・ニュー・ディール」を支えた思想は、先住民社会との多元的統合を通じた、善い社会への追究であったと結論付けた。また、コリアに関する未公刊資料が収集されているNY市立図書館や、内務省時代の重要書類が保管されているアメリカ公文書館において資料収集を行った。その結果、いまだ研究史上、使用されていない膨大な資料が保存されていることがわかり、その資料整理に取り組んだ。
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