今年度は、NYのコミュニティ・センターである人民協会の活動を調査し、その活動をまとめた。現在、その論文を投稿準備中である。今年度の特別研究員奨励費は、主に、人民協会のパンフレット、書簡、活動記録など、膨大な未公刊資料の調査収集費に当てられた。 人民協会とは、20世紀初頭、非英語圏出身者である新移民に成人教育やコミュニティ活動を提供することによって、彼らのアメリカ社会への適応を支援したコミユニティ・センターである。この新移民と呼ばれる東欧系・南欧系の人々は、大多数が英語を理解できず、文化も宗教も異なるが故に、アメリカ社会に適応することが甚だ困難な状態にあった。 第一に、人民協会が成人教育を重要視した理由は、人々が何らかの問題について自己決定を行う際、その前提条件として学問的な知識、理論を学習し、現代社会の抱える社会問題について多くの人々と議論を交わし、その上で社会的事物の善悪を自ら判断してゆく過程が、本人のみならず、民主主義を謳うアメリカ社会には決定的に必要であると、協会幹部は考えたためである。その思想的背景には、アメリカン・デモクラシーを基軸とする「善き社会」形成への強い志向を読み取ることができる。 第二に、人民協会は、新移民に生活支援や、アメリカ的価値観、倫理観を紹介する一方、かれらの民族的文化活動を企画し、コミュニティのあらゆる人を招待するなど、コミュニティの形成に貢献した。例えば、人民協会は「民族ページェント」、「非行少年問題委員会」や「衛生指導センター」などのコミュニティ・センター活動を推進し、近隣社会の有機的連帯関係構築を目的として、様々な活動を企画した。多様な民族の到来によって社会統合が危惧されているなか、人民協会は同化とは異なる形で多元的な社会統合を模索していた点を明らかにした。
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