研究概要 |
P.gingivalisがgingipainを介して宿主防御機構をエスケープし、病原性を発揮する機構について検討した。即ち、gingipainが細胞膜表面抗原を酵素分解することで、宿主が病原性微生物に対して不応答性になるという作業仮説に基づいて研究を実施した。P.gingivalisの歯周組織侵入に際して、最初に曝露される上皮細胞上のICAM-1は白血球との細胞相互間作用に重要な役割を果たす。そこでgingipainがICAM-1を分解することにより炎症反応をエスケープする可能性について検討した。まず始めにP.gingivalis培養上清および精製gingipain(HRgpA,RgpBおよびKgp)によるヒト口腔上皮細胞株KB上のICAM-1発現への影響をフローサイトメトリーにて検討した。その結果、P.gingivalis培養上清および精製gingipainをKB細胞に処理することにより、濃度および処時間依存的にKBのICAM-1発現が減少した。さらに歯肉上皮細胞のICAM-1発現も同様に減少した。他方、human leukocyte elastase処理細胞のICAM-1発現は影響を受けなかった。パラホルムアルデヒドにて固定したKB細胞においても、HRgpA処理により無処理細胞と同程度のICAM-1発現の減少がみられ、さらに同細胞より精製した細胞膜のICAM-1もRgpBにより分解されたことから、gingipainによるICAM-1発現の減少は酵素活性に基づく蛋白分解であることが示唆された。加えて、同活性は各種gingipain特異的インヒビターおよびヒト血清を前処理することで濃度依存的に抑制された。KB上に発現する他の抗原への影響について検討した結果、HRgpA処理によりCD58が約50%減少したのに対して、CD29,CD48,CD49b,CD49e,CD13およびMHC class Iは影響を受けなかった。好中球の歯肉上皮細胞に対するICAM-1依存的接着に及ぼすgingipainの影響を検討した結果、HRgpA処理により歯肉上皮細胞上へ付着した好中球数は抗ICAM-1抗体処理と同レベルまで抑制され、HRgpA特異的インヒビターを処理することにより付着した好中球数は未処理細胞と同程度みられた。以上の結果から、gingipainはP.gingivalisに対する宿主の免疫認識をエスケープさせ、歯周組織の慢性炎症成立に関与することを示唆している。
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