近年社会現象となっている引きこもりや不登校という問題は、現段階での治療機関では対応が困難な事例とされている。なぜなら、問題を抱えた本人がそこに来談することが極めて稀であることに加えて、本人の周囲にいる親等が問題の改善を求めて来談しても、実際カウンセリングが開始されると本人に変化を求めることが新たな別の問題を生むのではないかという、来談者の変化することへの強い不安から結局子どもに対して態度を変えることがでぎずに、問題が膠着化することが少なくないからである。本研究では、従来クライエント個人内の性格特性や過去の体験から解釈されてきた、こうした変化に対する「抵抗」を、問題をめぐる人々との間で悪循環化しているコミュニケーションパターンによって維持されるものではないかと捉えて、実地調査研究を進めた。 研究1では、日本人に特徴的な「抵抗」の因子構造を明らかにするために、「抵抗」測定尺度の作成を目的とした。そこで、被験者間で示される変化への「抵抗」について因子分析的検討を行ったところ、コミュニケーションにまつわる6因子が「抵抗」の構造を規定する因子として抽出された。 研究2では、「抵抗」が生起する心理療法場面の会話と日常的会話の共通点と相違点を明らかにすることを目的とした。そこで、不登校が改善したケースの心理面接場面を、会話分析によって時系列的に分析したところ、(1)クライアントの変化が導かれてゆく過程において、特徴的なコミュニケーションパターンの推移が示唆され、さらに発話行為にまつわる諸指標によってより詳細な分析を行ったところ、(2)独自というコミュニケーションのスタイルが、問題をめぐる人々との間で悪須環化した一コミュニケーションパターンとなっている可能性が示唆された。 また文献研究として、不登校及びメンタルフレンド制度の先行研究のレビューから、現段階での援助体制の現状と課題について論じた。
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