研究概要 |
血管病変発症のメカニズムの解明には,生体内における血流の複雑な4次元(空間3次元+時間1次元)の現象を定量的に評価する必要がある.さらに,患者の個体差のバラエティについても考慮しなければならない.計算流体力学的手法はそのような生体流れの領域においても理論・実験に代わる有力な方法となっている. 本研究は,左心室直後の大動脈弓において比較的よく発症する動脈瘤をターゲッ下とし,計算流体力学的シミュレーションに基づきその発症メカニズムを明らかにするとともに,得られた各種の計算力学データを整備し臨床医療現場への応用を試みるものである. 本年度は,オーバーセット格子の手法を用いて,大動脈弓における主要な3つの分枝血管の存在を考慮した大動脈弓内の血流シミュレーションを実施した.その結果得られた血流起因の力学分布(特に病変局在との関連で重要とされる壁せん断応力分布)を観察したところ,大動脈弓における流体力学的現象には,その弓部における分岐の存在よりもむしろ大動脈弓自身が有する3次元のねじれが大きく影響することが確認された.さらに,この結果を受け,大動脈弓におけるねじれを任意に表現し,計算モデルを作成するグラフィカルなインターフェイスシステムを開発した.このシステムを用い,臨床観察で得られている大動脈瘤例(10例),および,正常例(15例)の大動脈弓モデルを作成し,その内部の流れのシミュレーションを行った.その結果から,大動脈瘤例においては正常例に比べて,その瘤の発症が認められた部位の近傍において比較的に高い壁せん断応力が集中することが観察された. また,以上の研究結果については,すでに4件の国際学会,および,1件の国内学会において発表し,その成果について広く公表した.
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