研究概要 |
<この一年間で得られた結果> 石垣島の集団から6つのマイクロサテライトDNAの遺伝子座を特定した.遺伝的に分化の観られる三つのコロニークラスターがあり,その内2つのコロニーが繁殖コロニーであることが明らかになった. アサインメントテストによって島間の遺伝子流動を見積もったところ、石垣島と与那国島の間の推定値はこれまで考えていた値よりもかなり小さい値になることが明らかになった.与那国島のカグラコウモリの集団は他の島との遺伝子流動がほとんど無いことが分かった. 与那国島において,カグラコウモリの観察された洞窟は9つあった.これらの洞窟における個体群動態は季節ごとに異なっており,例えば冬眠に用いられる洞窟はこのうち3つであることが特定された. カグラコウモリをマーキングしてその動態を観察したところ,繁殖が行われる洞窟へ一年を通じて何回か戻っていることが分かった. 通常暗い場所を好む洞窟性のカグラコウモリではVisual cluesと呼ばれる顔の表情を用いたコミュニケーションは用いられないが,与那国島のカグラコウモリでは他の哺乳類に観られるこのVisual cluesを用いることが示唆された.与那国島ではカグラコウモリの行動は他の八重山諸島の島で観察されたものと異なり,冬眠時以外は日光の差し込むような明るい場所で生活することが分かっている.このこととVisual cluesの間にはなんらかの関係があるのかもしれない. 与那国島に観られるカグラコウモリの集団サイズは,目視による個体数のカウント,標識再捕獲法,分子マーカーを用いた有効集団サイズの見積もりを併せて行い,どの集団においても500個体以下であるとの結果を導いた. コウモリを材料にした研究では通常,至近距離からの識別のみが行われているが,今回新しい手法を用いることで遠方からの識別が可能になった.この手法を使用することにより再捕獲の必要が無くなり,個体群動態や行動と分子データの関係をより詳細に研究することができると期待される.
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