西表島、石垣島、与那国島においてカグラコウモリのコロニーを、新しいものから古いものまで含めてAMOVAで解析したところ、遺伝的変異はコロニー内で最大になった(96.15%)。島内の遺伝的変異が最小の0.39%となり、島間では3.46%になった。これらの結果からカグラコウモリの遺伝的変異のコロニー内、コロニー間、島内、島間といった各階層における値がそれぞれ全く異なっており、階層ごとに特徴的な値をもつことが分かった。また遺伝的変異がコロニー内で大きいという結果から、コロニー間の遺伝的交流が大きいことが示唆され、コロニー同士が遺伝的にある程度結びついたメタ個体群の様相を呈すると考えられる。 理論的に算出した過去の集団サイズ(1257個体)と実際に与那国島でカウントした現在の集団サイズ(449個体)の比較から、比較的近年に劇的な個体数の減少が起こったことが示唆され、この個体数の減少には明らかに遺伝的なボトルネックはかかっていない。集団サイズの減少を招いた一因は人間の活動にあると推測できる。 西表島、石垣島を含む八重山諸島全体で個体の移動分散がオスに偏っていることが遺伝的に裏付けられた。しかし与那国島ではメスの移動分散がオスよりも大きいという反対の結果を得た。本研究は移動分散の程度が生態的条件によって、オス-メス間でシフトすることを種内レベルで研究した初めての例である。 また、与那国島では、本種のコロニーを形成する個体数がとても少ないが、交尾後の冬眠時期には集団サイズが増加する。予備解析の結果から本種は一夫多妻制の交尾システムを取っていることを示唆し、他の八重山列島の本種の雄のコウモリで生じていることとは異なり、与那国島の雄のコウモリにとっては交配競争よりも資源競争の方が重要であることを推測させる。
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