笑顔は社会的なコミュニケーション場面で最も頻繁に用いられ、対人関係を円滑に進める上で重要な役割を果たしている。一般に、笑顔は、真顔時の印象と比べてその表出者の印象をよりポジティブにすると報告されている。本研究では、モーフィング技法を用いて刺激となる顔の笑顔強度を連続量的に操作し、物理的変形量(画像的笑顔強度)に対する心理量(知覚的笑顔強度や魅力など観察者の受ける印象)を計測して、それらの関数関係を導出することを目的とし、笑顔強度評定(実験A)、品等法を用いた魅力評価(実験B)、ならびにSD法(Semantic Differential method)による印象評定(実験C)の3つの実験を行った。実験結果から以下の知見が示された。実験Aではモーフィングによって操作した笑顔強度に伴い、知覚的な強度も直線的に増加した。したがって、操作強度は知覚強度とほぼ等価であると解釈した。実験Bでは笑顔強度に伴って顔の魅力は徐々に増加し、ある笑顔強度で最高魅力となるが、その最適強度を過ぎて笑顔が強くなりすぎると魅力は減少傾向に転じることが示された。実験Cでは笑顔強度の異なる顔画像から受ける印象として、「活力性」、「柔和性」、「美感性」、「支配性」の4つの印象因子が抽出された。それぞれの印象因子は笑顔強度の増加に伴って独自の変容特性を有し、「活力性」「柔和性」は笑顔強度に依存して大きく変動する特性を持つのに対し、「美感性」「支配性」は笑顔強度に依存した大きな変動は見られないことが示された。重回帰分析により魅力度と各印象因子の関係を調べたところ、4因子の中で『柔和性』、『美感性』、『活力性』の3つの因子が笑顔による魅力評価に寄与していることが示された。 これらの結果は、2003年9月、ヨーロッパ認知心理学会おいて発表され、日本顔学会誌において学術論文として掲載された。
|