研究概要 |
スクラムジェットエンジンは機体組込み型のエンジンで,機体下面に発達した境界層をエンジン内に吸込む.この境界層吸込みにより,燃焼による境界層剥離が促進され,エンジンは不始動に陥り易くなる.これまでエンジン試験では,この流入境界層を抽気することで,エンジン不始動を抑制し始動域を広げることに成功している.しかしながら,不始動抑制のメカニズムや,エンジン性能を支配している物理現象は分かっていない.そこでこの境界層抽気をおこなったエンジン燃焼試験を,乱流モデルを組み込んだ反応流コードを使って模擬した.そして境界層抽気が燃焼時の不始動の抑制に及ぼす影響や,そのときのエンジン内部流の燃焼状態を調べた. はじめに得られた計算結果を実験値と比較し,気流/燃焼時における計算コードの較正を行った.本計算は壁圧分布のみならず,熱流束,空気捕獲率,エンジン内部抗力/推力,および抽気による始動域の拡大も再現した.そこでこの計算結果を用いて,スクラムジェットエンジン内部の燃焼場を調べた.その結果,燃料噴射口付近には小大規模なセル状火炎が存在しているが,燃焼器下流にいくに従い,セル構造は消えて大規模なシート状の拡散火炎がエンジン内に現れることが分かった.そしてこの大規模な拡散火炎は燃焼効率の低下を引き起こし,燃焼/推力性能は噴射口付近のセル状拡散火炎により決まっていることが分かった. 著者はこれまでにスクラムジェットエンジンの限界推力を一次元解析により見積っている.低マッハ数では燃焼器入口マッハ数が低く,すぐに熱閉塞する.そこで発熱によるレーリ損失が最小になるように,流路断面積に合わせてマッハ1を保ちながら燃焼する「M1分布燃焼」を仮定し,基準となる最大推力を見積った.実際のエンジンでは,拡散火炎がエンジン内に大きな亜音速域を形成することで,この解析で仮定した「M1分布燃焼」のような状態を達成し,当量比Φ=1でも熱閉塞せずに作動し推力を発生していることが分かった.
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