研究概要 |
本年度は、Boro型細胞質雄性不稔イネの稔性を回復させるRf1のミトコンドリア内で機能を分子生物学的に明らかとする目的で、形質転換体を用いた解析を行った。稔性回復遺伝子Rf1は35アミノ酸の繰り返しからなるpentatricopeptide repeatモチーフ(PPRモチーフ)をコードすることを明らかとした。このPPRモチーフを持つタンパク質は、植物では葉緑体やミトコンドリアにおいて、RNAの成熟反応(切断、スプライシング、RNAエディティングなど)に関与していると言われている。 前年度の成果によって、回復系統のRf1近傍にはRf1と相同性の非常に高いPPRタンパク質をコードする遺伝子であるPPR8-2,PPR8-3が存在することが明らかになった。これらの塩基配列データを比較したところ、Rf1のN末端領域とC末端領域は、PPR8-3のN末端,C末端領域と96%の相同性であった。一方、その間に挟まれる領域は、PPR8-2の中間領域と97%の相同性を持つことが明らかとなった。このことは、PPR8-2とPPR8-3が重複することでRf1遺伝子が形成されたことを示唆している。これらの遺伝子がコードするタンパク質が、Boro型細胞質雄性不稔性の関連遺伝子であるミトコンドリアB-atp6 RNAのエディティングに影響を及ぼすかどうか調査した。方法は、それぞれの遺伝子を雄性不稔系統に遺伝子導入し、得られた形質転換体よりRNAを抽出。逆転写反応後、B-atp6遺伝子特異的なprimerを用いてクローニングし、塩基配列解析によりエディティング効率の調査を行った。この結果、どの遺伝子を導入した系統でも、プロセッシングを受ける前ではエディティング効率は低いが、プロセッシング後にはほぼ100%のエディティングが行われることが明らかとなった。このことは、これら3つのPPRタンパク質はエディティングには関与していないことを示していると考えられた。 さらに、Rf1のB-atp6 RNAプロセッシングに対する機能を明らかにするために、HAタグを融合したRf1を雄性不稔系統に導入した。この解析については、現在継続中である。
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