1.ミオグロビンはプロトポルフィリン鉄錯体(ヘム)を補欠分子とする酸素貯蔵蛋白質である。本研究ではミオグロビンの機能向上、機能改変を目的として、新規に合成したポルフィセン鉄錯体をヘムと入れ替えた「再構成ミオグロビン」を調製し、その性質について検討した。この再構成ミオグロビンの酸素親和性は、野性型ミオグロビンよりも2600倍高く、一酸化炭素に対して約10倍高い選択性を示した。再構成ミオグロビンの酸化還元電位は野性型より約250mV低く、電子共鳴スペクトルでは、再構成ミオグロビン内での鉄のスピン状態は、野性型とは大きく異なり、低スピン(一重項)てあった。共鳴ラマン、赤外スペクトル等の各種分光学的データと併せて再構成ミオグロビンの高い酸素親和性は、補欠分子として導入したポルフィセン錯体そのものの性質に起因することを明らかにした。 2.金属オキソ錯体は、シトクロムP450などのヘム蛋白質が関与する生体内酸化反応に重要な役割を果たす反応活性種であり、その反応機構について長年議論されている。そこで、本研究では、ルテニウム4価オキソ錯体による酸化反応機構について、生成物分析、速度論的手法により検討した。この錯体とクメンとの反応では、クミルアルコール、アセトフェノンが生成し、反応中間体の検討および反応速度測定により、この反応はルテニウム錯体による水素引き抜き反応によって開始されることが明らかとなった。またNADH類縁体との反応では、形式的に酸素移動した化合物が生成するが、反応の初期で、水素引き抜き反応とヒドリド移動が並行して起こることが反応速度測定によって分かった。以上のことから、ルテニウム4価オキソ錯体は、水素引き抜きおよびヒドリド引き抜きの両方について、高い反応性を持つことが示された。
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