研究概要 |
1.ポルフィセンの臭素化と金属錯体の合成および物理化学的性質の評価 テトラ-n-プロピルポルフィセンに臭素を反応させ、1カ所から5カ所を臭素化したポルフィセン類を合成した。そのコバルト錯体を合成し酸化還元挙動を検討したところ、中心コバルトおよび環の還元に由来するいずれの酸化還元波も、臭素化が進むに従ってアノードシフトした。また、軸配位挙動を検討した結果、臭素の数が増えるに従って軸配位平衡定数が増大した。これらの結果を基に置換臭素数との相関を評価したところ、ピロールβ位のみを置換した4置換体までは、すべての物性値と置換臭素数との間に直線的相関が見いだされた。なお、臭素1個当たりの変化値は、酸化還元電位についてΔE_<1/2> _<co>=0.05V/BrおよびΔE_<1/2> _<ring>=0.09V/Br、軸配位エネルギーについてΔΔG=1.8 kJ mol^<-1>/Brであった。このことは、臭素の電子的効果のみが錯体物性変化に寄与していることを示唆する。一方、架橋部位にも臭素を導入した5置換体では、前述の相関に従わない値を示した(ΔE_<1/2> _<co>=0.10V/Br,ΔE_<1/2> _<ring>=0.31V/Br,ΔΔG=3.0 kJ mol^<-1>/Br)。従って、この部分への置換基導入が最も大きな効果を与えると言える。これらの結果は、ポルフィセン錯体の機能制御の基礎データとして有用である。 2.コバルト(II)ヘミポルフィセン錯体の合成と特性評価 オクタエチルヘミポルフィセンのコバルト(II)錯体を合成し、サイクリックボルタンメトリー法により酸化還元挙動を検討した。この錯体ではポルフィセンコバルト錯体とは異なり、Co(II)/Co(I)の酸化還元波が観測された。これは配位空孔のサイズが大きく変化したことに由来するものと考えられる。さらに、ハロゲン化アルキルを添加するとCo(I)種が求核的に反応し、コバルト-炭素結合を有するアルキル錯体が生成することが明らかとなった。この結果からヘミポルフィセンコバルト錯体は、コバルト-炭素結合の光開裂によるラジカル生成や還元的脱ハロゲン化反応などの触媒としての利用が期待でき、その反応特性について大いに興味が持たれる。
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