非線形応答は、タンパク質が正確に情報伝達・変換を行う上で必要不可欠な機能である。人工系でも非線形応答を示す分子の開発か行われてきたが、「分子を認識した」という初期段階で止まっており、新たな機能の発現までには至っていない。そのような背景のもと本研究では、非線形応答を利用し、化学情報を多様な超分子集合体の発現へと変換する分子素子の開発を目指し、それによって、一次元および二次元に広がる超分子集合体の選択的構築・制御を目的としている。 これまでに上に示した目的を結実させるために設計した環状化合物の合成を行い、4量体、5量体、6量体、7量体の環状化合物をそれぞれ単離することに成功した。それぞれについて、吸収、蛍光スパクトルを用いての物性の評価を行ったところ、環の数の違いによる物性の違いは観測されなかったが、いずれの環状化合物においても単量体と比較して共役が広がっているということが明らかとなった。 実際に非線形応答を示すかどうか、5量体の環状化合物とフッ化物イオンとの錯化挙動の検討を吸収スペクトルを用いて行ったところ、2個、1個、2個の順にフッ化物イオンが錯化していることか明らかとなった。一般に認識部位であるホウ素を複数個有するホスト分子は、フッ化物イオンが錯化するにつれ会合定数が大きく減少するということが報告されている。しかしながら、我々の設計した環状化合物についてはそのような挙動は観測されず、非線形応答を示していることが明らかとなった。このことから、期待したような構造の伝搬が誘起され、それがフッ化物イオンとの錯形成に反映されているものと考えられる。
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