本年度はまず、検地帳を分析する前提的作業として検地帳(本帳)の機能を追究した。ここでは、検地と同時に、「歩測帳」と記される各筆の年貢高換算表が作成されていることから、村方では検地帳(本帳)は年貢台帳として機能していたことを理解した。 続いて伊勢国太閤検地帳の書誌的分祈を通じて、記載方法と奉行の関係及び本帳と写帳の関孫を考察し、特に全検地帳を対象とした今後の基礎となる分析を行った。まず写帳の分析に備え、本帳の記載方法を確認した。確認すると本帳には田方・畠方を別記するものと、田方・畠方を混記するものが国内全てにおいて地域的偏りなく見られた。しかし検地奉行別に見ていくと、新庄直忠・稲葉重通・岡本良勝・一柳可遊が奉行のものは田畠混在記載、滝川雄利・服部一忠・朽木元綱が奉行のものは田畠別記載であること、また新庄直忠が奉行のものに限り、一筆毎間数が記載されている場合があることの2点が確認できた。 さらに上記奉行別記載方法の分類に基づき写帳を分類すると、本帳紛失後の写帳を除けば、全て本帳同様の奉行別分類に分けることができる。これに加え、本帳と写帳が共に残る飯高郡野村郷・一志郡与原郷の各帳面を比較すると、記載方法・情報量共全く差異は見られない。一部検地帳は写帳作成時に不要情報を省略した場合も考えられるが、この場合も記載方法の変更は見られず、基本的には本帳を忠実に写したことが、確認できる。これにより、伊勢国文録検地帳写帳は、本帳をほぼ忠実に写したものであることが確認できた。 以上により、検地帳は年貢台張として機能したことを明らかにした。また書誌的には、従来は記載方法と奉行は無関係とされていたが、奉行によって記載方法に差異があること、一筆毎の間数記載は検地奉行新庄直忠の特徴であったこと、そして写帳は基本的には本帳の記載方法を遵守し作成されたことの3点を明らかにした。以上が本年度の成果である。
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