国内外の先行研究の諸成果ならびにフィールドワークの手法によって得た一次資料をもとにして、現代ケニアの多元的法体制の動態とその歴史的諸相を明らかにし、かつ法人類学一般に理論的寄与を行うという本研究の目的に鑑み、初年度にあたる平成15年度は、以下の研究成果をあげることができた。 1.日本国内においても実務・理論の両面で幅広い関心を集めているADR(裁判外紛争処理)について、ケニア・米国・パプアニューギニアの事例を比較考察する文献研究を行い、日本法社会学会の学会誌上でその研究成果を発表した。そこでは、国際開発援助の一端において、米国で発達したADR理論が、1990年代以降にアジア・アフリカ諸国へ技術移転されるようになっており、それが対象国の多元的法体制に新たな変化をもたらしていることを明らかにした。 2.ケニアの農村社会の紛争処理をめぐる実態調査で得たデータを取りまとめ、その成果を法人類学者による論文集『<もめごと>を処理する』において発表した。ケニアの多元的法体制において、都市部の裁判所と農村部の寄合とにおける訴訟手続を比較しつつ、地域住民による法アクセス実現の社会的条件を、ケニア・ニャンザ州のグシイ社会における具体的な紛争事例分析をつうじて明らかにした。 3.ケニア・イースタン州のメル社会において実施した独自のフィールドワークならびに先行研究の再検討によって得た知見から、アフリカ民族誌学の社会組織論ならびに法社会学の身分法研究において高度に理論化されてきた兄弟契約・血盟兄弟分の概念を、19世紀末の東アフリカの文脈で考察した。その成果は、地域研究の専門誌『アジア・アフリカ言語文化研究』ならびに文化人類学者による論文集『世界の宴会』において発表した。
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