15世紀フランドル絵画の有した社会的・宗教的役割を研究する上で祭壇画は避けることのできないジャンルであるが、本年度の研究においては、祭壇画外翼に多く描かれた彫像表現の意味と役割の検討を進めた。これらの彫像は白や黒の単色からなるグリザイユで表わされているため、先行研究ではモノクロームの意味がおもに考察されてきたが、本研究では、グリザイユ表現の再検討を行うとともに、彫像に不可欠であった台座の部分に着目し、ファン・エイクから後続の画家にいたる表現の変遷を調査した。その結果、ファン・エイク世代が彫像モティーフを導入した当初は台座の物理的・象徴的機能が保持され、観賞者と中央パネルとを仲介するメタ・イメージとしての役割が有効であったこと、しかし続く後継者たちの絵画になると、台座の表現が軽視され、その役割も形骸化していったことが明らかになった。当研究は間もなく三田芸術学会誌『芸術学』にて発表される。 また一方で、2002年にベルギーのブリュージュで行われた展覧会「ファン・エイクの時代」の調査も行った。比較対象には1902年に同地で行われた同テーマの展覧会を挙げ、100年の間に進展したフランドル絵画研究の動向と、学際的になりつつある今日の状況を検討し、『日仏美術学会会報』に論文として発表した。その際には、ベルギーでの調査・研究、およびブリュッセル自由大学のD.マルタンス教授との議論が極めて有効であった。
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