・『早稲田大学演劇博物館特別資料目録8・9 芝居番付 明治編 東京・横浜の部(上)(下)』編纂作業の仕上げ、とくに索引部分単独作成。 この完成により今後3年間の明治年間の東京を中心とした興行史調査がかなり容易になった。この成果はさっそく、 ・「歌舞伎座株式会社の成立-その再検討と評価-」(演劇研究センター紀要II掲載)執筆 において、明治三十年前後の歌舞伎座の興行実態を調べる上で非常に役立った。 また上記と平行して、 ・『芝居絵に見る 江戸・明治の歌舞伎』(小学館・2003年刊行)108-119ページの執筆、および本全体の構成 を行った。 以上から明治20年代末までの東京の歌舞伎興行の形態変遷について概略をまとめることができ、さらに明治30年代初項の歌舞伎座が、後の帝国劇場の先駆となるような近代的な株式会杜組織を導入していたことをあきらかにした。これはいままで全く知られていなかったことで、近代歌舞伎興行史で従来暖味に考えられていた、劇場における株式会社組織導入のプロセスを明確に考える手がかりを増やしたものと思う。 ・「九世団十郎事歴 上巻」(『歌舞伎 研究と批評」32号所載)の翻刻および校注 これは、近代以降の日本演劇の基礎を作った東京の重要な俳優、九代日市川団十郎の親族・興行関係者らがその事績をふり返った、演劇博物館の所蔵する回想録で、申請者の研究の中心となってきた田村成義も重要な証言を行っている。 現在まで全く知られていなかった明治十年代までの、興行者としての団十郎の側面をあきらかにした新しい基礎資料であり、これを正確に読むことにかなり成功したものと考えている。これは博士論文のなかで明治初年の興行の実体を記述する際に、かならず役立つ資料になるはずである。
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