本研究は、近世ハンガリーの社会秩序を農民の集団的自治能力に着目しつつ明らかにすることを目的としている。この目的の達成のため、平成15年度は(1)宗教領域と(2)平和・治安維持という、二つの問題領域をとりあげ、それぞれ研究を進めた。科学研究費補助金は、主に、研究遂行に必要とされたハンガリーの文書館における史料収集の費用と関連図書の購入費にあってられた。 (1)宗教領域に関しては、これまでに収集した教会行政関連文書の分析と、ハンガリー国立文書館における史料収集、整理をすすめた。この結果、北東部ハンガリーの広い地域で、村落と市場町が教区運営に不可欠の役割を果たしていたこと、そうした役割を背景に、教区の紛争解決にあっては村落・市場町が一定の発言権をもっていたことが確認された。この分析結果の一部は、「近世ハンガリーの教区秩序と村落・市場町-北東部ゼムプレーン集の教区運営の事例から-」と題して論文として発表された。 (2)に関しては、地域社会における犯罪と暴力への対策という問題について、ハンガリーにおける半年間の史料収集、及び現地の研究者との意見交換をおこなった。具体的には、ハンガリー北東部の一所領を事例研究の対象に設定し、領主裁判と村落・市場町の裁判の関連を示す史料を収集、分析した。また、ハンガリー科学アカデミー歴史学研究所に滞在し、定期的に研究員との意見交換をおこなった。この作業は進行中であるが、成果の一部については所属部局でおこなった研究発表をもとに現在論文を執筆中である。
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