本年度の研究は、極東各地を比較する基準の確定と、次年度以後の調査を実施するフィールドの選定との2点を主たる内容とした。 前者については、資料的な蓄積の多い日本列島の石器資料を用いて、以前に荒削りな形で提出したモデルを、より純化を進めた2つのモデルに整理し直して公表した。1つ目は本州島の北半における石器群変遷の3段階モデルである。等価構造(更新世OIS2の石刃石器群)→入れ子構造(更新世終末期、旧石器/縄文移行期の両面調整石器群)→個別構造(完新世の定住的石器群)、との3段階の変遷がそれぞれ、冷涼な氷期の環境化での頻繁な移動生活→温暖化による環境変化を受けた遊動領域の縮小化→温暖・湿潤な環境下での定着的生活に対応する可能性を示した。2つ目は、上記の3段階変遷の中間に相当する「入れ子構造」の、両面調整石器リダクションモデルである。原石が剥離の進行によって縮小(リダクション)する「横方向」と、剥片-石核関係が入れ替わる「縦方向」との二方向への伸縮可能性に特徴があり、これを石材の獲得時と、石器としての使用時との時間的・空間的なズレを調節する際の有効性に関連する石器群構造と理解した。これらの成果によって、本州島北半の地理範囲で導かれたモデルが、他の極東各地の資料に認められるか否かが、比較の重要な論点になるとの前提を得た。 後者については、北海道島、アムール流域、沿海州、本州島を放射性炭素年代と石器群の変遷に着目して、更新世終末期の考古学研究の現状を俯瞰する論文を公表した。特にアムール下流域のオシポフカ文化については、1920年代以来のロシア側による学説史を検討し(その一部を公表予定)、ロシア人研究者と共にハバロフスク市近郊のノヴォトロイツコエ10遺跡の予備的な野外調査を行って、次年度の発掘調査の継続的な実施を計画した。また韓国の細石刃石器群に関する韓国人研究者の著作の検討にも着手した。
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