本年度の研究は、昨年度までにいくつかの論文として公表していた研究前提を著作としてまとめる作業と、実際のフィールド調査の実施との2点を主たる内容とした。 前者については、日本列島における更新世終末期研究の学説史を検討することで、これまでの研究が「縄文時代」という日本国の現在の領域を前提としたパラダイムであり、また文化史的な手法による研究のために、自然環境変化との比較が困難であったことを指摘した。また石器研究の上では、従来の主流であった石器製作技術の復元的研究からの細分編年研究ではなく、原石の消費過程であるリダクション・シーケンスを把握することによる。技術構造論的アプローチが重要であるとの立場を確立した。その上で更新世終末期石器群を「両面調整石器群」として把握し、この両面調整石器群の構造を、(1)石器群のリダクション構造、(2)遺跡群の形成構造との2点に着目してモデル化した。このモデルを用いて、日本列島の更新世終末期石器群のうち、信濃川流域の尖頭器石器群および本州島北部の荒屋系細石刃石器群をとりあげて、それらの石材利用からみた先史狩猟採集民の長距離移動について解明した。また極東大陸部の更新世終末期石器群のうち、アムール河下流域のオシポフカ文化について、現状の研究をレビューして将来の比較にそなえた。これらの内容について東京都立大学に学位を10月に請求し、所定の審査をへて12月に博士(史学)の認定をうけた。 後者については、昨年度に予備的な野外調査を実施したロシア共和国ハバロフスク州所在のノヴォトロイツコエ10遺跡の発掘調査を実施した。遺跡はアムール川を見下ろす扇状地地形の末端に所在し、昨年の予備的調査の所見から、更新世終末期のオシポフカ文化に帰属することが理解されていた。本年度の調査において1層から6層の自然堆積物を把握し、その中で3層に住居状遺構、4層から5層に人工遺物の集中を検出した。おもな人工遺物は、多様な両面調整石器と細石刃の石器群と、出現期に帰属する土器片である。また土器片付着物や、炉跡から炭化物資料を100点以上採取し、層位学的な連続の中での放射性炭素年代測定を実施する予定である。この調査の概要は一部公表したが、現在、より詳細な報告を作成中である。
|