研究概要 |
本年度は生体内における酵素の活性中心モデル錯体として、多段階の電子移動を示すオキソ架橋型金属多核錯体を合成し、電極表面上への固定化を試み、その電気化学的性質や表面上での二次元的構造等を検討した。 はじめに、ヘムエリスリン(Hr)タンパク活性中心のモデルとなるオキソ架橋型鉄(III)二核錯体を合成し、金電極表面上に固定化した。走査トンネル顕微鏡(STM)により錯体の金(111)単結晶電極表面上への吸着過程を分子レベルで検討した結果、初期過程では錯体分子はダイマー構造をとり、吸着量に増加に伴い表面密なランダム構造に変化していくことが明らかになった。また、この錯体の単分子膜は電極表面上で[Fe^<III>(μ-O)Fe^<III>]^<3+>/[Fe^<II>(μ-OH)Fe^<III>]^<3+>に帰属される可逆な酸化還元反応を示し、表面増強赤外分光法によりその反応前後での赤外スペクトルを測定したところ、酸化還元反応に対応して錯体に帰属されるいくつかのバンドの強度が変化した。これにより表面上に固定化した錯体分子の傾きを電位により変化できることを初めて明らかにした。 続いて、同じようなオキソ架橋構造を持つルテニウム三核錯体分子について、金電極表面に固定化し、その表面構造および酸化還元反応による変化を分子レベルで検討した。その場STMにより表面に吸着した錯体の単一分子観察に初めて成功し、電極表面にランダム構造をとり密に単分子膜を形成していることを明らかにした。また錯体単分子膜は過塩素酸溶液中で、Ru_3(II, III, III)/(III, III, III)に起因する可逆的な酸化還元を示し、その前後でSTM像における錯体分子の明暗が可逆的に変化することがわかった。さらに、高電位側に電位を保持すると、Ru(III)に配位したCOの解離が起きる。この過程をSTMにより可視化し、界面配位子置換反応の速度論的解析を行うことに成功した。
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