本研究のテーマは大型褐藻の遺伝的多様性の解析と種間の比較であるが、個々の材料についてみると、ワカメを材料とした遺伝的多様性の解析ではほぼ日本全国にわたってワカメの遺伝的多様性をミトコンドリアのcox3遺伝子と核rDNAのITS 1領域を対象として遺伝的多様性の解析を終了し、日本沿岸に9つのハプロタイプが存在することを明らかにし、この結果については投稿論文を準備中である。またITS 1領域をみたときにワカメ種内に大きくわけて5タイプの配列がみられ、このうち2つはそれぞれヒロメとアオワカメにみられる配列であることから野外における種間交雑の存在を明らかにすべく現在対象をヒロメ・アオワカメに拡大し、解析を進めている。ワカメ・ヒロメ・アオワカメの種間雑種の存在については11月に植物学会関西支部大会(奈良女子大)で発表した。アカモクについても分布域をほぼ網羅する形で採集を終え、現在解析を進めている。本種に関しては一年生であることや流れ藻として長距離の移動が見られることなどの理由から予想されていたよりもはるかに明瞭な地域個体群間の分化がみられることを把握している。瀬戸内海ではそれぞれの季節性を反映して隣接した個体群間でも遺伝的に分化がみられることから、他の地域でも遺伝的分化に対応した生理的分化が見られる可能性を考慮にいれて今後研究を進めていく必要がある。また本種に関しては近縁のシダモクとの関係も調べ、これまでアカモクとは別種とされてきた本種が遺伝的にはアカモクの中の地域個体群の一つとみなせるという結果を得ており、3月末の藻類学会第28回大会(北海道大)で発表予定である。なおワカメとアカモクの種内の遺伝的分化のパターンを比べると、ともに太平洋側と日本海側に大きな分化があるのに加え、太平洋側でも関東以南と東北の間に大きな遺伝的分化がみられ、海流やそれに伴う海水温の違いが海藻の個体群の遺伝的分化に対する影響が大きいことが示唆される結果が得られている。
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