[目的] これまでの我々の研究により、マウス実験的ぶどう膜炎回復後脾臓内に抗原特異的免疫制御性T細胞が誘導され、この細胞集団を同系マウスに養子移入すると実験的ぶどう膜炎を抑制できる。本年度の研究目的はこの制御性T細胞の誘導・活性化機序をもちいた「同種異系網膜移植拒絶反応の制御」である。 [実験方法と結果] 研究計画書に記載した通り、実験的ぶどう膜炎を起こさずにぶどう膜炎特異的制御性T細胞(Treg)を誘導する方法を確立し、それを同種異系網膜移植拒絶反応抑制に応用した。 手術顕微鏡下でGFP蛍光トランスジェニックマウス(H-2^b)から網膜組織片を摘出し、異系マウスであるB10RIII(H-2^r)硝子体内に注入した。半数のマウスにはB10.RIII由来のTregを上述のプロトコールに従って誘導し、養子移入した。残りの半数はTregを養子移入せずに対照群とし、実際に網膜視細胞が生存しているかを視細胞蛋白(リカバリン)抗体で免疫染色することにより、また、免疫細胞の浸潤の有無をGSレクチンとCD3抗体免疫染色により観察・評価した。 →対照群は2週間後には75%のマウスで網膜移植片が完全に拒絶、吸収された。 →一方Treg移入群は全例で移植片が生存し、移植片サイズも有意に大きかった。 →Treg移入群は網膜視細胞が多数生存していたが、対照群では視細胞はほとんど拒絶・死滅していた。 →免疫細胞は両群ともにみられた。 [まとめと考察] 同種異系移植片内に免疫細胞が浸潤していたにもかかわらず、網膜組織片も網膜視細胞も長期間生着・生存した。本免疫機構を用いることにより、単に同種異系網膜移植片が大きいだけでなく、網膜視細胞を「生存」させることが出来る。さらに、本機構は眼のみならず他の臓器移植分野でも有用である可能性がある。(753字)
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