カントの『純粋理性批判』における「超越論的論理学」を理性の自己批判、自己吟味のための論理学として読み解き、哲学における認識・思惟批判の構造を再検討することが、研究の目的である。 上記の目的のため、『純粋理性批判』やカントのその他の著作、及び、カントと同時代の思想家の著作を参考にいれ、文献学的研究を行ってきた。とりわけ、カントに多大な影響を与えたマイヤーの『理性論綱要』の翻訳作業を、目下、行っている。 これまでの研究業績は以下の通り。 まず、『純粋理性批判』において重要な役割を担っている判断表とカテゴリーが、カントと同時代の学校哲学の論理学、形而上学の伝統の中から生まれ、さらにそれらが新たにア・プリオリという性質をもつ論理的機能として、カントによって新たに定位させられた点を究明した。この際、カテゴリーの形而上学的演繹に関わる諸問題に対しても一定の見解を与えた。 次に、カント哲学の解釈においてキーワードとなる「超越論的」と「超越的」の区別を、カテゴリーの超越論的使用と超越的判断を解明することによって明確化した。この解明によりカントが自らの超越論的哲学へ当時の学校哲学を埋め込んでいる状況が理解できた。 さらに、カント哲学を基礎とするドイツ観念論、とりわけシェリング哲学における認識と自然、自我と対象の一致という真理論についての解明を行い、知的直観に関わる問題点を析出した。 尚、情報倫理学に関する書評も行った。
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