本年度は、夏季および春季にのべ4ヶ月にわたりロシア連邦コリヤーク自治管区においてアリュートル語の現地調査を重点的におこなった。 現地調査では、形態論、統語論にかんする聞き取り調査に加え、コーパス作成のためのテキスト収集、映像資料、民俗語彙の収集をおこない、それぞれ一定の成果をあげることができた。テキスト資料と映像資料は、それぞれMDおよびCD-Rに収録、デジタル化することで恒久的仕様に耐えられるようにした。また現地研究者と協力して、アリュートル語およびコリヤーク語の既存資料を整理・デジタル化し、チュクチ・カムチャッカ諸語の総合的な記述のための基礎作りに務めた。 このほか、類型論にかんする研究の一環として、アリュートル語における所有・存在をあらわす形式についての調査をおこなった。アリュートル語には「持つ」にあたる動詞がなく、所有・存在をあらわすのには接尾辞をもちいる方法、接周辞をもちいる方法、存在動詞をもちいる方法の3種類の構文がある。これら構文の選択には、譲渡可能性をはじめとして、有生性やトコロ性などのさまざまな要因がかかわることを指摘し、名詞句内の所有関係にかんしてのみなされていた従来の研究よりも、さらに踏み込んだ分析をすすめた。この研究の成果は「アリュートル語の所有・存在をあらわす形式について」『環北太平洋の言語』第11号(科研費基盤B1「北方諸言語の類型的比較研究」成果報告集、2004年3月刊行予定)として、公表を予定している。
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