超高強度でありながら、超低摩擦特性を発現するゲルを創製し、軟骨などの生体材料の低摩擦性を理解するための単純なモデルとして摩擦機構の基礎的知見を得ることが本研究の目的であり、本年度の研究活動をとおして次のような知見を得た。 ゲルの高強度化を可能にしたDouble-Network (DN)法の重合条件を最適化することにより関節軟骨た匹敵する10MPa以上の圧縮にも耐えるゲルを合成することに成功した。大荷重下での摩擦挙動を観察するため、新たに高荷重型摩擦試験機を開発し、MPaオーダーの荷重をかけつつ、摩擦係数がわずか10^<-4>程度しかない材料を精度よく測定することが可能になった。双方の開発によりはじめて大荷重下での低摩擦性を研究するはこびとなった。その結果、0.01MPa-2.5MPaの範囲で荷重が増加するにつれDNゲルの摩擦係数は減少することがわかった。さらに、ゲルを形作る高分子鎖の運動性に着目し、溶媒の粘度を変えて同様の実験を行なった結果、次のようなことが明らかとなった。溶媒の粘度すなわち高分子鎖の運動性と、摩擦係数・相対摩擦速度の間にはあるシフトファクターが存在し、同荷重で測定した摩擦係数の速度依存性のグラフどうしで重ね合わせることにより、マスターカーブを描くことが可能である。そのマスターカーブの挙動は以前より我々が提案していた吸着摩擦モデルで統一的に理解ができることがわかった。それによると、ゲルの高分子鎖が摩擦相手基板と吸着相互作用し、移動により引き伸ばされると摩擦力として現れるのだが、その吸着点の熱運動による吸着寿命と相対摩擦速度の兼ね合いで、吸着摩擦から境界潤滑を経て流体潤滑へと移り変わっていくと解釈できる。この知見を元に、高分子の粘弾性的性質、相手基板との吸着力、溶媒の粘度等を調整することにより、目的の速度域で最も低摩擦性を発揮する材料開発が期待できる。
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