今年度は、日本に約8ヶ月、海外に約4ヶ月滞在して調査・研究を行った。今年度の課題は、「アイデンティティの政治」の中でも、特にカースト・アイデンティティをめぐる問題について研究を進めることであった。そのため、2003年4月から7月にかけて、東京大学において、インド政治の争点が「開発」から「アイデンティティ」に変化する過程について、主に政治経済学的観点から研究を進めた。7月16日から9月24日にかけては、科研費を使用してインド国ビハール州に海外出張を行い、前述したカースト・アイデンティティが先鋭化する過程について現地調査を行った。調査村は、上位カーストと下層カーストの対立が組織的な暴力として展開した事例であり、政治・経済・社会のそれぞれの側面について有益な資料を収集することができた。帰国後は、所属先の東京大学において、本出張で収集した資料を基として「地主と虐殺-会議派支配崩壊後の農村政治インド・ビハール州の事例-」と題する報告を行った。報告後は、研究会で指摘された論点を取り入れながら発表を取りまとめる作業を行うと同時に、カースト政治の先鋭化についてさらに研究を進めた。このため、2004年1月から3月にかけて、同じビハール州において私費で調査を行っている。本調査においては、前回と違う対立のパターン、すなわち上位カーストと中間カーストの対立の位相を解明することを目的としており、そのための資料を収集しているところである。これらの調査は発表にはまだ至っていないものの、来年度中には何らかの形で発表することとしたい。
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