平成15年度はR.M.ヘアと合理主義者、そして実在論者(J.マクダウェル、D.ウィギンス、N.スタージョン)と非実在論者(G.ハーマン、S.ブラックバーン)の諸論文を相互内在的に吟味し、我々の道徳心理および道徳的判断の諸特質を明らかにすることを行った。如何なる心理過程に基づいた、如何なる性質を有した道徳的判断であるならば、我々は行為へと動機付けられ得るのかをこの研究において解明することを試みた。特に自然主義的な道徳実在論者と非実在論者との間で取り交わされている論争の一つとして「道徳的説明」の問題があるが、この問題に注目し、道徳的事実ないし特性というものは道徳的説明によって科学的事実と同様の地位を証明しうるものであるのか、もしそうでないならば道徳的事実とは如何なる性質を有する事実であるのかを考察した。その研究の一端が「道徳的説明と道徳的事実-自然主義的道徳実在論の可能性と限界、および相対主義の克服に向けて-」として公表される予定である。さらには事典の編纂にも携わり(『現代哲学キーワード』有斐閣)、「倫理」の項目を執筆した。 また私は本年度から東北大学から東京大学に研究機関を変更したが、このことによって東京近郊に在住する同世代の分析倫理学の研究者と道徳心理学に関する読書会、研究会を行うことが可能になった。また熊野純彦氏を東京大学での受入研究者としたことで英語圏の倫理学以外にも、カントやヘーゲル、そしてレヴィナス等の大陸系の倫理学の研究にふれる機会が増えた。
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