『蒙古学信息』に掲載された「色目人与元代制度・社会」では、元代中国の蒙古・色目・漢人・南人の民族区分に関する通説を否定し、色目人を中心に元代の政治・社会・制度における民族の諸相を分析した。 9月4日から10月30日まで、中国に滞在し、北京で拓本・善本の閲覧、河北・山東・雲南各省で元代石碑・遺跡を調査し、研究の遂行に必要な資料収集に努めた。山東省済南市の霊巌寺での調査に際しては、山東大学・済南市文物管理処の協力の下、立入禁止地区の石碑を含め、多くの石碑を実見・撮影することができた。 10月2日から6日まで、中国蒙古族歴史与文化国際学術研討会に参加し、「蒙元時代公文制度初探」を報告した。その後、同題の論文が『蒙古史研究』に掲載された。本論文では、以下の二点を中心にモンゴル時代の文書行政について検討した。第一に、カルピニの描写するグユクの教皇宛書簡の翻訳方法がモンゴル政権による文書翻訳に臨んだ場合にとった基本的な方針であることを指摘し、後に「蒙文直訳体」として定型化する翻訳文体の淵源であると結論した。第二に、「蒙文直訳体」文書を刻した「長清霊巌寺執照碑」を紹介し、文書移動の過程の一事例を分析し、公文書の開封と音読に関して新知見を披瀝した。なお、この国際会議の参加報告を『日本モンゴル学会紀要』に寄せている。 上述の「長清霊巌寺執照碑」については、中国での資料調査を踏まえて、第4回遼金西夏史研究会において報告を行った。 そのほか、第40回野尻湖クリルタイ[日本アルタイ学会]及び『元典章』講読会第3回特別例会で行った調査報告は、いずれも昨年度以前の調査に係るが、文献資料との照合や資料整理は、本年度に行ったものである。また、『元史研究通訊』掲載の「2002年漢・日文及近期英文元史研究文献目録」のうち、日本語研究文献の部分を分担した。
|