研究論文執筆のための資料収集と研究者との交流を主目的として、ヘブライ大学(イスラエル・エルサレム)のトルーマン平和研究所ならびに同大学の国立図書館に出向いた(2004年4月ならびに7月)。 今年度の研究発表の概要は、下記の通りである。 近現代のユダヤ系の哲学者らの多くがヨーロッパのユダヤ人問題の解決の一手段として、イスラエルという「ユダヤ人国民国家」の建国に一定のコミットを行なっていたわけであるが、実際にはその立場は一様でないばかりか、「ユダヤ人=国民」とすることそのものに対する見解は、賛否両極にまで分散していた。その中でも、離散の終焉を目指して国家建設に邁進したシオニズム運動は、建国運動を政治的に主導し、そのことで自らの手で別の民族パレスチナ人の離散(=難民化)を生み出していった。 論文「ユダヤ・ディアスポラとイスラエル国家、そして難民的存在としてのパレスチナ人」において分析したのは、国民国家を批判する視点を持ちえたユダヤ思想家らの提起を遺産相続したのは、逆説的にも難民化したパレスチナ人知識人らであった、という錯綜した思想的連関である。 なお、刊行論文こそ少なかったものの、入念な調査・資料収集を重ね、いくつかの研究発表が予定されている。それらと、既発表論文を併せ、単行本として研究内容をまとめる準備が進められつつある。
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